街とは、「生きているニンゲン」が寄り集う空間ですから、それ自体が
活きています。
ましてや、一度だけの人生を楽しむ脳天気なイタリア人の街には独特の
空気が満ちています。
フィレンツェには世界の文化遺産の24%が散りばめられている・・・
つまり世界の四分の一がここにあります。

この街にてイタリア病に感染した方は実に多く、かく言う自分も23年
前、聖堂美術館にあった某彫刻家Mの作品にて昇天し、イタリア
移住(というか、日本には住まないこと)を決意したのでした。それ以
来、ヴェニスともども150回ずつは訪れていますが決して飽きる
事がない街です。

そんな危険な満ちた街の素顔を最新撮りおろし映像で、もう一度なぞっ
てみる事にしましょう。


1=何人ものニンゲンが処刑された広場の「野ざらしたち」と僕が勝手
に名付けている一群。
   夏の日差しがようやく傾いて来て、夕食前の散歩です。
2=こちらは屋根付きの回廊にて。メドゥーサの首を掲げるペルセウスです。
天文少年だった僕は、この作品を星座物語の本で見てよく覚えていました。
ここで再会するとは、びっくり。
それはカシオペアの娘、アンドロメダ姫を救って、逆玉に乗る「力だけが頼りの男」なのです。
でもなんだか、切った首と自分の首がそっくり!!
鋳造技術の奇跡と言われるこの像を作った人は彫金の神様としてヴェッキョ橋に奉られています。
(後で紹介します)
3=抜け落ちた空に積み上げて行くようなヴェッキョ宮殿の塔。
  500年間の栄枯盛衰を見てきました。
4=急いで夕食にするのは勿体ないし、だいいち「粋」ではありません。
  時間はたっぷりあるので、ワインの立ち飲屋で、冷えた発泡の白にトスカーナおつまみ。
  真っ青な空の色が木のテーブルや、皿の表面に照り返しています。
  ざわめきの中で乾杯する贅沢なひととき。ああ、これで君がここに居たらなあ・・・。
5=夕食後、おいしいワインの記憶を大事にしたいので、ほろ酔いで宿まで歩く事にしました。
  アルノ川沿いの風に吹かれながら帰りました。
  恋人たちが、この暑いのに抱き合っている脇を抜けて行きます。
6=名ワインのおかげでぐっすり眠れて、早起きしてしまい、朝食前の散歩です。
  水のある街というのは心が和みます。
  移ろい行く色と光の戯れに、何枚も撮ってしまいました。
7=結局ヴェッキョ橋まで、また歩きました。
  貴金属店の鎧戸が限りなく美しく息づいています。
  無粋な金属シャッターでは無く、歴史を感じさせる木造りです。
8=朝食後、美術館に向かう途中で、元気な楽団の音が響いてきました。
  てっきりデモ隊の行進かと思ったら、何の事は無い、一人楽団のパフォーマンスでした。
  朝から張り切っています。それを見てるだけで元気が出ます。
  僕がJR総裁だったら、都内の各駅地下道の朝にこういう人たちを配置します。
9=20年前に初めて見たときには、「これはあの有名な大聖堂では無い!」と思い込みました。
  そのくらい「宗教の聖地」というイメージからかけ離れた華麗さを持っているからです。
  色とりどりの石が美しすぎる。日射しによって微妙に色を変えます。
10=石にて造った・・・重厚にして、華奢にして、繊細にして、
大胆な、なんと言うか・・・もうどうにでもしてくれ!!な、それは巨大な芸術作品。
世界最大の象眼細工の箱だと思う事にしていますが、何度見ても凄い。
世界の八分の一はこれかな、とも思えます。
11=またヴェッキョ橋まで来ました。
先ほどのペルセウス像を造った職人チェッリーニの銅像の柵に無数の鍵が掛けられています。
 何でも、鍵に二人の名前を書いて柵に留め、合鍵を橋の上からアルノ川に投げ捨てると、
そのカップルは永遠なのだそうで、ものすごい数の鍵がくっついています。
12=ガーン!!しかし、人生はキビシい!!。
市の当局が派遣した金物屋の若い衆が、パッチン、パッチンと、
いとも簡単に「永遠の鍵」を 大ペンチで切って行きます。
ああ、愛ははかない・・・永遠の誓いはどうなるのでしょう?
13=フィレンツェ市当局公認で断ち切られた「永遠の愛」の墓場。
日本人ももちろん居ます。
 だいたい、「川に合鍵を捨てたから愛は永遠だ」なんて思って日々の努力をしないだろうから、
ダメになるのは当たり前だぜ。
 結局「永遠的に幸せ」だったのは、この鍵を何千個と売りさばいた路上の売店でした。
14=やっぱりミケランジェロ広場まで行く事にして、
上から「永遠の合鍵」を呑込んだアルノ川を眺めました。
遠くから眺めると、数千年に及ぶ無数の「永遠の愛」のストーリーを生ませ、
また、死なせした母なのだと実感します。
愛に合鍵なんか無い・・・というのを忘れないようにしないといけません。
15=おまけ。
  ヴェッキョ宮殿にて見つめ合う二人。
  時が止まっています。